延々と書き続けているこの出産記録。
読んで頂いている方の中には、「いい加減、長すぎる。こんなん読めないよ」と言われそうですが、私の拙い文章で、私が経験した内容をきちんと伝えようとすると、こうなってしまうわけで。
も少し言うと、このうんざりするほどの長い長い長い時間が、夫である私が妻の出産において感じた最大の出来事とも言えます。
なので、このエントリを見た人が、たとえマウスのホイールを軽く上下させてこのブログをスクロールして「うわ。長ぇな。」という感想しか持って頂けなかったとしても、そこでその人が感じた「うんざり感」というものは、私が妻の出産までに感じた「うんざり感」と意外に近いじゃないかな、などと思ったり。ええ。詭弁ですがね。
というわけで、もう少し私達の「待ち時間」にお付き合い下さい。
昼近く。おばちゃんが就寝時に被るようなビニールキャップと、手術着を身にまとい、麺男ことドクターヌードルマンが再登場。
妻の様子を確認。いまだ子宮口は狭く。産道はむくんでいるとのこと。そりゃー身体がこれだけむくめば内臓(?)だって腫れるに違いない。
ここで麺男から情報が。確かなことは言えないが、大体、破水させてから実際の出産までは12時間くらいかかるらしい。
てことは。妻が破水したのは午前9時ごろなので・・・出産は午後の9時か!あと9時間!先に言ってくれ!
朝方、昼過ぎくらいには産まれてるんじゃないかと思っていた私たちは、自らの見立ての甘さに愕然とする。
特に可哀想なのは妻。すでに昨日導入されたエピドュラルも点滴も空になっており、二袋目に突入済み。彼女の身体はひたすら膨らみ続けている。それ麻酔薬とかじゃなくて、イースト菌とか入ってない?
うっかり事前に外し忘れていた結婚指輪は、ありえないほど薬指に食い込んでおり、指輪の下の皮膚が黒ずむほど。
これじゃ、指輪を切らなきゃいけないかも・・・と心配する妻に、そんなもん気にするな、大したことはない、と元気づける。
もし結婚指輪が駄目になったら、スイートテンダイアモンドでも何でも買ってやるつもり。もちろん本気だ。ええ。妻の金で。
病室にいる私達3人には何もすることは出来ず、動き続けるのはベッド脇のディスプレイを走る2本のグラフと、刻々と変化する心拍数のみ。
妻の陣痛は次第に強くなってきている模様。麻酔のため妻が感じる感覚は鈍いが、ベッド脇のディスプレイを走るグラフが描く山はやや高くなり、山と山の間の平地も短くなってきているような気がする。
ひたすら待つ。ただそれだけ。
こんな話がいつまでも続くのも、読んでる方にとっても、いい加減退屈だと思ったり。最初に書いたとおり、これが本当のところなのですが、流石に申し訳ない気もするので、ちょっとの間、余談。病室の様子を書いてみる。
ホテルの一室然としたこの病室だが、そのなかで異彩を放つものがひとつ。
それがこれ。(クリックで拡大。以下も同様。・・・してどうすると言われても困る)

一番上に書いてあるのは、Positions for Laboring Out of Bed。 ベッドを使わない出産姿勢 とでも訳すのか。
このボードにはさまざまな出産のスタイルが素敵なイラストとともに紹介されている。

立った姿勢。壁によりかかったもの。椅子にもたれかかったもの、机に突っ伏したもの、いや本当にさまざま。出産曼荼羅と言った感じ。
仰向けに横たわり、股を開いて出産というのは、世界的に見れば意外に少数派という話をどこかで聞いた覚えがあるが、実際この病院においても、出産時の姿勢は本人が一番楽だと思うものを選んで良いことになっている。
そんなの、初めての場合は何が楽かなんて分かるかい、という、そういう人のための案内板なのかも。
にしても、そこで紹介されているものには、なかなか面白いものが。
たとえば、これ。

バランスボールみたいのに乗ってる。えーと。出産するんだよね?鍛えてる場合じゃないのでは?てか、この姿勢でどうやって産むの?随分楽しそうだけど。
こんなアクティブなのとは対照的なのがこれ。

お母さん、何もかも嫌になってしまったようです。不貞腐れてる。
お父さんが仕事から帰ってきたら、夕飯の支度もされておらず、「おかえり」も言わない肥えた妻は、ソファーでテレビを見ている。百年の恋も冷める瞬間だな。これは。
そして、一番インパクトがあったのが、これ。

たぶん水中出産を紹介しているのだと思う。実際、この病室には専用の浴室もついており、希望者には水中出産ができると聞いた。
いやしかし・・・これはなんだろう。
これは出産に臨む妊婦というより、若いツバメをはべらして、ジャグジーに浸かりながら、酒をラッパ飲みしてるマフィアの女ボスにしか見えない。
マイアミバイスとか、そこらへんの刑事ドラマに出てくるのが良く似合いそう。
この女性の剣呑な目つきがまた。

「おう、あんたうちのシマにちょっかいかけて、ただで済むと思うなよ」
そんな台詞が似合いそうだ。
ボードを見て、そんな想像を膨らませるしか、今の私にはすることがない。
1時間ごとに看護師が来ては、妻の状態をチェックする。やはり陣痛は強くなっているが、まだまだ遠い。
妻のエピドュラルはとうとう三袋目に突入。取り替えてくれた人からは「おー新記録だね!」などといわれる。全然嬉しくないよ。
と、夕方になり、嫌な話が。
このままの状況が変わらなければ、今晩にも帝王切開になるらしい。
なんと。
<つづく>