TWITETTA!

スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
【--/--/-- --:--】 | スポンサー広告 | page top↑
10月19日にあったこと。
もし万が一死んだ時はどうしようか、という話もしていた。

アメリカでもっとも数多く行われる外科手術、とは言え何があるかは分からない。

「身体から取り出されるのが、内臓の一部か子供かの違いしかないわ」

というのは、その日あるナースが口にした言葉。言われてみればそうかもしれない。リスクは少ないと言われていたとはいえ、
万が一ということもある。

軽い口調で妻が言う「私が死んだら」というフレーズを聞くたびに、できるだけ無表情を保ちながらも少しだけ胃の底が重くなった。

約10ヶ月の間に信じられないくらい大きくなった妻のお腹は、まるで服の下にバスケットボールを入れた泥棒見習いのようだった。

最後まで自然分娩を希望していたが、双子の上に一人が逆子では選択の余地は無い。

妻の手術は午後5時からの予定。

前日の夜から絶食させられていた妻だったが、手術に向けて不安と緊張と興奮ですこしハイになっていた。

妻を車に乗せ、病院に3時30分に到着。

待合室ではこれが最後のチャンス、とばかりに、これまで散々嫌がっていた妻の妊婦姿をカメラで撮ったりしながらも、もうひとつ現実感が伴わない。

俺が双子の親に?三人の子持ち?まさか。

娘のケメと同じ産院、以前と同じ作りの病室に入り、妻は手術着に着替える。

心音を計るセンサーがついたゴムバンドを二本巻き、心音のチェック。

一人の心音はすぐに分かったが、もう一人がなかなか見つからない。これかな?と思ったら一人目と同じ心音だった、なんてことが繰り返され、結局20分近くかかって2人分の心音が確認された。

ナースが注射器を持って入室。「今から点滴だけど、動脈は持ってきた?」

ジョークのつもりだろうが、あんまり面白くない。ひきつった笑顔で返す。アハハ。ナイスジョーク。

時間は刻々と過ぎ、絶食中の妻を目の前に私はオレンジジュースをゴクゴクと飲み、気づけば午後4時過ぎ。

立会うことになる私は、ナースから無菌服を渡され、四苦八苦しながら身につける。以前、食品工場を見学したときと同じ格好だな、などと場違いなことを考えながら。

担当医がやってきた。

同じ病院なので、そのままだったら前回の麺男医師が担当するはずだったが、今回の妊娠ではあえて違う先生に担当してもらっていた。今回の先生は評判が非常に高い人気のある先生。

余談だが、前回の出産は麺男先生だったというたび、ナースがみな「あー・・・あの先生ね。・・・今度の先生のほうが素晴らしいわよ!」と言うのが面白かった。いや面白くないか。

実際、今回の先生は非常に素晴らしく、細かい気配りとどこまでも質問に答えてくれる態度など、麺男医師で感じた不満や不安が一切なかった。
こういうのは2回出産を経験しないと分からない。

担当の先生が笑顔で妻に聞く。「昼食はどうだった?」

「えー?・・・絶食・・・ですよね?」

「ひっかけ質問だよ!ハハハー!」

さっきのナースと言い、きっと緊張をほぐしてくれようとしてるのだろうな。笑えないけども。

さまざまな手続きをこなすうち、予定時刻寸前。

点滴台を引き連れて、ついでに私も引き連れて、医師と妻は手術室に向かった。

てっきりベッドに寝かされたままいくのかと思いきや、徒歩で行くのね。なんか変な感じで。

手術室は思った以上に広く、そしてまぶしかった。蛍光灯の白々とした光が室内を隈なく照らしていて、全てがなんだか映画のセットのような、
本当にここで手術するのだろうかと思うくらい嘘っぽい感じさえした。

手術台の上に横たえられ、麻酔を打たれる妻。私は妻の足元らへんに待機するように言われ、馬鹿みたいに突っ立っていた。

ちなみに妻は限りなく全裸に近い状態。大きいお腹に予防接種のときに塗られたような黄色の液体をグルングルンと塗りたくられている。

妻のあまりに無防備な様子にすこしかわいそうになる。なんというか、銭湯でのぼせた人が見当違いな手当てをされてる感じとでもいうのか。

テレビの出産シーンで見るような、妻の視界と手術部位を挟む衝立らしきものはない。これで手術ってのはなんつーかその、本当?ちょっと心配になってきた。

激しく居心地の悪い私に気がついたのか、ようやく医師の一人が丸椅子を持ってきてくれた。椅子は妻の頭の左側。よしよし。それっぽくなってきた。

丸椅子に腰かけた私に妻が言った。

「ちょっと!顔色悪いけど、大丈夫?」

「え?大丈夫だよ」

「本当に本当に大丈夫?倒れたりしないでね。本当に顔色悪いから」

主観的には大丈夫なつもりだが、そんなに顔色が悪いのだろうか。意識ははっきりしているんだけど。

すっかり麻酔が効いている妻。お腹の辺りでは既に医師とナースが忙しく動き回っているが、私たち二人には何が行われているのかさっぱりわからない。

「いよいよだね」

「なんかまだ実感が湧かない」

そんな会話を続ける私達。

衝立はないものの、私の座っている位置からは、手術する部位はほとんど見えない。いや思いっきり背筋を伸ばせは見えるのだろうが、そんな勇気は無い。

と、視線を手術室の奥に向けると、妻の寝ているベッドの足元側、天井近くに斜めにかかった鏡があるのを発見。そこには小さくだが、しっかりと妻の黄色く染まったお腹が映ってるではないか。

遠くにあるので意識さえしなければ視界に入ってくることはなさそうだが、これは気をつけなければ。

「ねぇ、今何してるのかな?」

妻の問いかけに、少しだけ頭を持ち上げ、あんまり見えない、でも少し見える、くらいの角度で医師の手元を盗み見る私。

「んー。なんか手に持ってあなたのお腹にチョイチョイ書いてるみたいけど、切るところを決めてるんじゃないかな?」

「ああそう」

ふと先ほどの鏡に目をやる。

もう切ってた。

続いて何かが焦げる臭い。歯医者で嗅ぐ、あの鼻の奥が苦くなるような、ゴムの焼けるような臭い。

遠くの鏡に映るのは何かが赤かったりピンクだったり白かったり。

うわわわわ。

「あああ。もう切ってる切ってる切ってる」

「え?ぜんぜん分かんない」

そうなのか。麻酔ってすげえ。当たり前だけど。

出産中のはずなのに、私達夫婦も延々と雑談している。意識的にか生まれてくる子供のことは触れない。なんだろうこのノンビリした感じは。

ナース達と言葉を交わしながら、忙しく手を動かしていた担当医の言葉がふと耳に入ってきた。

「オーマイガッ」

「え?いまオーマイガって言わなかった?」ちょっと心配そうに妻が聞く。

慌てて彼らの会話の続きに耳を傾ける私。妻の位置からは良く聞こえないらしい。

どうやら医師がこの間自分の身に起こった面白エピソードをナースに話していたらしく、その中の台詞としての「オーマイガ」だったらしい。

・・・本当にリラックスしている。さすがというか。目の前の手術とは全然関係ない雑談が続いている様子にほっとするやら。

しばらくたってから、今度は担当医が私に声をかけた。

「ここらへんだから。いいね?」

血がついた手で空中にクルリと円を描く医師。

「え?何がですか?」

「子供をここに抱えあげるから。その場所からこういう感じで写真を撮ると、きっと良い写真になると思うよ」

さすがベテラン先生。細かすぎる心配りありがとうございます。

チラチラと鏡を見る私。相変わらずピンクと言うか白と言うか赤と言うか。コリアンバーベキューというか。

突然、鏡と私の間の空間に、ちょっと驚くくらい透明な液体が大量に吹き出した。

とうとう子宮を開いたらしい。バキューム音とともにナースが羊水を吸い、妻の頭の近くにあったガラスの器にドドド、と溜まっていく。おおこんなところに容器があったとは。

妻が向こう側をみたら思いっきり目の前に羊水が見えるが、言わないでおこう。

おーおーおー、すっごい勢いで溜まっていくピンク色の液体。

そしてその数分後、まるで手品のように、医師の両手に支えられ、一人目が誕生。

先ほど医師が円を描いた、まさにその空間を埋めるように赤子が出てきた。

まー頭の形の綺麗なこと!さすが帝王切開!それがカメラを向けながら私が思った最初のこと。

私が写真を撮ったのを確認すると、赤子はナースに渡され、新生児用ベッドに運ばれる。

丸椅子から初めて立ち上がり、ナースを追いかけて、赤子の写真を撮り続ける私。

「二人目だよ!」

今となっては妻が言ったのか、医師が言ったのかは分からないが、あわてて丸椅子に戻り再度写真を撮る私。さっきの繰り返し。違うのは赤子の性別のみ。

次にあっちで身体を拭かれてる男の子を撮ったら、こっち体重を量られてる女の子を撮って。そうだパウンドだけじゃなくてキロでも表示してもらうようにナースに頼まなきゃ。二人同じベッドに寝かした写真も撮らないと。一応携帯でも撮っておこう。そうだ妻は大丈夫か。

二人分の写真をできるだけ公平に沢山撮ろうとする私には、双子の父になった感動とか感激とか感慨よりも、はたまた無事に出産をこなした妻への感謝の気持ちよりも、忙しいレストランにいきなり配属されたウェイターみたいな気持ちの方が大きかった。

「はい男の子抱っこして」「はいつぎ女の子」「じゃあ次二人とも抱いてみる?」「写真とってあげようか?」

両腕に乗せられた双子の重さと温かさ、彼らがくるまれたタオルの香りを嗅ぎながら私が思ったこと。

「双子か・・・。な・・・なんだか大変なことになった気がする」

遅いよ。


twins


その後、アメリカの出産の通例どおり、妻は48時間で退院。

太いホチキスで留められた傷口は、これから私達が迎えるてんやわんやの3ヶ月を思ってニヤニヤするチェシャ猫のよう。

チェシャ猫


というわけで、我が家が5人家族になった日のお話でした。

ではまた。
スポンサーサイト
【2012/01/25 02:30】 | アメリカで産んでみる | トラックバック(1) | コメント(8) | page top↑
| ホーム |
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。